目次
1)マクロに見た真珠層の構造
養殖真珠(以下真珠と称する)を二つに切ると、核とそれを取り巻く層(真珠形成層)から出来ている。
真珠形成層の大部分は真珠層だが、核との境界付近にはしばしば真珠層とは異なる層が存在し、有機質層とか稜柱層(りょうちゅうそう)と呼ばれる。
マクロ構造で重要なのは、真珠層の半透明性という性質。
半透明性というのは、厚くなるとほとんど光を通さなくなる、すなわち不透明になり、薄くなると十分光を通す、すなわち透明になるという性質。
2)ミクロに見た真珠層の構造
真珠の表面
顕微鏡で見ると(100倍)
人間の手の指紋のようなものが見える。
更に拡大すると(5,000倍)
指紋は実はタイルのような小さな結晶であることがわかる。
真珠層の断面
100倍
10,000倍
真珠層は小さな結晶が無数に積み重なって出来ている。小さな結晶は炭酸カルシウムという物質で、それがアルゴナイトという結晶構造をとって集合している。
驚くことにこの結晶一枚一枚が薄いタンパク質のシートによって接着されている。まさに生物にしか作り得ない繊細緻密な仕組み。
このミクロに見た真珠層の構造こそが真珠独特の色や光沢を生み出している。
3)輝きを伴った色、干渉色
干渉色とは
炭酸カルシウムの小さな結晶が何百枚、何千枚と積み重なっているその構造そのものが色を作る。この結晶は厚みが0.2から0.6ミクロン程度の薄い層を作っている。この厚さはほぼ可視光線の波長レベルと一致するため干渉現象が起こる。この現象の結果出てくる色彩を干渉色と言う。構造に由来して出てくる色なので構造色とも言う。
干渉色の例
シャボン玉や水面に浮いている油の膜の七色の色彩、一部の甲虫、コガネムシ、タマムシの羽の色
干渉色の特徴
干渉色による色は、輝きを伴っていて、色が濃くなれば輝きも強くなる。色であると同時に光沢でもある。故に光沢色とも呼ばれる。
例)コガネムシの羽は緑色で光っている。
真珠の干渉色
ピンクとグリーンの二つ。
一つの色が綺麗に出ているものもあるし、二つの色が共存している場合もある。
ピンクなりグリーンが色濃く出るということは、輝きも強くでるということになる。
4)タンパク質の色、実体色
実体色とは、
真珠層を構成している炭酸カルシウムは一枚一枚タンパク質のシートで包まれている。このタンパク質も色を持っている。貝それぞれが出す色素による。タンパク質由来のこの色を実際に存在する色なので実体色、地色と称する。
実態色の例
クロチョウ真珠のブラック、アコヤ真珠やシロチョウ真珠のゴールド、淡水真珠の様々な色
濃い色が出るわけ
タンパク質のシートは結晶に比べたらはるかに薄く、色がついているといつてもわずかな色。濃い色が出るのは何百枚、何千枚と積み重なっているから。結晶そのものは無色透明だが、一枚のシートの色が薄くても積み重なれば濃くなる。
5)透けて見える色、下地色
下地色とは、
真珠層の半透明性が下地色を生み出す。
真珠形成層のうち核との境界部付近はしばしば真珠層とは違う層が存在する。有機質層は黒褐色、稜柱層は褐色。これらの色が透けて見えるのが下地色。有機質層や稜柱層が下地色になるには核を覆いつくすほど全面的に存在する必要がある。一部だけどと「しみ珠」になってしまう。
下地色の例
現在人気のアコヤ真珠のナチュラル・ブルー。
6)真珠の色はなぜ複雑か?
複雑さの原因
干渉色、実体色、下地色と三つの質の違う色が一個の真珠に共存しているところが真珠色の複雑な原因。
複雑な色の一例
ほの少し黒みを帯びている赤みをもったゴールド系の真珠
黒みは下地色、赤みは干渉色、ゴールドは実体色
色の支配
干渉色、実体色、下地色の三つの色の濃淡、程度、配分などを支配しているのは海と貝と真珠袋。養殖真珠と言えども人間は全く関与できない。複雑さに拍車がかかるゆえん。
7)表面光沢と内面光沢
真珠には二種類の光沢がある。
表面光沢とは
一般の物質と同じように表面の平滑さで決まる。表面に凹凸があれば光は散乱され光沢は悪くなる。逆に凹凸が少なければ光の反射は増え光沢は良くなる。
内面光沢とは、
干渉色の輝き。小さな結晶の積み重なりから起きる。色を伴っていて真珠層の中からくる光沢。
真珠の光沢
表面光沢、内面光沢の二つの光沢が一個の真珠に共存しているところが真珠の真珠たるゆえん。
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